2024.10.10
『HAPPYEND』が全国絶賛上映中🎬
この度、どんな映画も、誰にでも映画を楽しんでほしいという空監督の想いから、手話・文字通訳付きという、通常の映画作品ではあまり行われてこなかった新しいかたちでのQ&Aイベントが実現しました。本作の日本語字幕付き上映は、10/20(日)、10/21(月)に東京、関西、札幌、名古屋、福岡の劇場で日本語字幕付き上映を行うことが決定しています。詳しくは劇場ページをご確認ください(https://theaters.jp/21051)
トークイベントでは、空音央監督と字幕と音声ガイドを制作したPalabra株式会社代表の山上庄子さんそれぞれに1名ずつ手話通訳がつき、スクリーンにはトークの内容が随時文字で映し出されていく方式。
近年、映画のバリアフリー化が少しずつ増えてきているものの、上映後のトークイベントに手話通訳とU Dトークによる文字サポートがつくのはまだまだ少ない状況にあります。
耳が聞こえない、聞こえづらい方をはじめ、日本語の聞き取りに自信がない方、作品の台詞をより正確に理解したい方などあらゆる方々が映画を楽しめるようにと日本語字幕は空監督が自ら監修。モニター会にも参加し、当事者の方々の意見を聞くことで、より作品の意図を反映した字幕、音声ガイドを目指しました。その制作にかける想いやこだわりから映画の着想の話まで、Q&A形式でのイベントをレポートします!
山上:映画の日本語字幕や音声ガイドを制作する際、まずは初稿を作り、途中でモニター検討会を実施しています。これは実際に聞こえない方や聞こえづらい方にも参加していただき、字幕のブラッシュアップをしていく会です。今回、空監督は全部の場面に立ち会ってくださって、監修というよりは一緒に作っていく工程を踏んでいただきました。制作の過程で空監督の音楽や音へのこだわりについてもたくさんお話を伺ってきましたが、改めてお話を伺えればと。
空:画面に映る映像を何か言葉で表現するのはそこまで難しくはないのですが、音楽を言葉で表現するのは面白いけどすごく大変な作業だったのが印象に残っています。なぜなら音楽というのは言葉にならない感情をそのまま伝えるようなメディアですよね。映画は無限に解釈できるものなので、あまり説明しすぎるとその解釈の楽しみが削がれてしまうのではないかという懸念もあって。それをうまい具合に言葉を通して、かつ曖昧なまま伝えられるかを、モニターの方にも意見していただきながら本当に頭をひねりましたね。
山上:お客さんは字幕を読みにきているわけではなくて、あくまで映画を観にきている。映画の世界に入りこんでもらうことを優先して作っていくので、取捨選択の繰り返しの作業になるんですね。普段、様々な作品でモニター検討会をやっていますが、その中でも本作は、どの言葉を選ぶかについての監督の想いとモニターの方の意見をすり合わせながら、時間をかけて制作された作品でしたね。ここからは会場のみなさんからも質問を受けつけたいと思います。
質問1:今回、日本語字幕付上映をみて、映画というのははっきり観客の意識に上がってくる音と無意識レベルで聞こえてくる音とで設計されているのだなと思いました。例をあげると主人公のユウタと母の学校からの帰り道のシーンで、赤ちゃんの声が聞こえてくるシーン。あれは文字がなければ赤ちゃんの声に気づかなかったかもしれません。それに気づいたことでそのシーンに意図があることが意識できて面白いなと思いました。まずはこの映画の着想について教えてください。
空:おっしゃる通りでまさに無意識レベルで作用する音と意識的に聞かせる音があります。ユウタと母の学校からの帰り道のシーンに入る赤ちゃんの声は、「もう18歳で大人だね」と母に言われても、本当はまだまだ子供なんだと無意識ながらもユウタが感じていることを観客にも感じてもらいたかったからです。
でも字数制限などで省かざるを得なかったシーンもあります。例えばトムがユウタにアメリカに行くことを伝えるシーンは、実はそこで上空に飛行機が通るんですよね。トムが遠い地に去ってしまうことを暗示する音です。最初はそのシーンにも字幕を入れていたのですが、会話の内容とも重なるのでそれは省く選択をしました。
あとは、校長室で生徒たちが尋問されているシーン。校長先生のセリフに対して[警察官が咳払いをする]という字幕が出ますが、実は字幕をつける前はその咳払いに自分は気づいてなくて。でもそれを入れることによってギャグが生まれたりと嬉しい発見があって、映画の違う一面を見れたという感覚でした。映画を制作する側からしても気づかなかった音や情報を、字幕を制作するプロセスで発見することができたのはすごく楽しかったです。
山上:お話いただいたように、見ただけではわからない音や重要な音を中心に文字にしていくのですが、その取捨選択は監督から背景を伺いながら細かく相談していき、今の形になりました。飛行機のシーンは大事な会話が続いている中で会話を遮ってしまうような部分もあったので、観客にはその会話の中身に集中して欲しいという理由で省いたところもありましたね。
空:本作のインスピレーションについてはたくさんあるのですが、1番は自分の高校生や大学生の頃の体験です。僕は「3.11」で政治性が芽生え、それ以降はアメリカにいたのですが、オキュパイ・ウォールストリートやBlackLivesMatterを通して政治性が成熟、発達していきました。その中で、大学生のときにすごく親しい友人と疎遠になったりすることもあって。僕の方から一方的に距離を置きたくなった人もいれば、友人の方から切られた体験もありました。それまで僕にとって友情はすごく大切なものでした。だからそんなにも大切な関係性が政治性の違いによって失われてしまう悲しさみたいなものが抑えられなくて。それでこの物語を書き始めたのが、やっぱり第1のインスピレーションかなと思います。
質問2:それに対してのディスカッションがきっとあったであろうと思いつつ伺いたいのですが、役名のない人のセリフの字幕が出る際に、その人を「男」「女」とジェンダーを分けて表現された部分について経緯を教えてください。
空:基本的に画面に演者の口が動いているのが見える状態であれば字幕で役名の情報は省いてもいいのですが、引きの画や演者が後ろを向いている状態の場合は役名を入れる必要があると思います。役名のないキャラクターのセリフについて、本当は名前を入れたいけれど、やっぱり急に新しい名前の情報が出ると混乱する方もいると思います。僕自身も見た目でジェンダーを断定したくないという気持ちがすごくあったし、かなり考えた部分ではありました。でも説明的なワードを入れても文字数がオーバーしてしまうということもあり、今回はそのように表現する対応をしました。その指摘は重要だし今後何か改善していきたいなと思うところなので、このように言っていただけて嬉しいです。
山上:私たちも普段「男性」「女性」という表記を使いがちなのですが、これは実は鋭い質問といいますか、字幕制作においてまだまだ議論がされていかなければならない部分だと思っていることです。まずバリアフリー字幕は音を聞いている人と字幕で情報を見ている人の差をなくし、同じように受け取れるということを大事にしています。男性の声か女性の声か、音で聞いてぱっとすぐにわかるその情報がないと、やっぱり認識が変わってきてしまうので、そういう意味でも現状その表記を使っています。でもやっぱり難しいのは、その声の人物をこちらが勝手に女性だと認識していても、本人はそのように自認してない可能性ももちろんありますよね。これは他に良い方法がないか考えていかなければならないと思っています。
空:実は音声ガイドの方でも似たような問題があって。例えばトムのことを目で認識できない人に説明する際に、トムを「ブラックルーツ」という言葉で説明した方がいいのか、髪型などで説明する方がいいのかというのも結構悩みました。物語の終盤でアンジェロというキャラクターが出てきますが、ここは新しい登場人物が一気に登場するシーンで。アンジェロは役柄も本人自身もブラックミックスというアイデンティティだったのでその情報を取り入れましたが、その際に他の生徒にも日本系やアジア系、白人とのミックスとか、その情報は等しくいれた方がいいんじゃないかという議論になったんです。自分でもこれまで考えていなかった問題や悩みみたいなものがいろいろ出ながらも、制作していくプロセスで非常にためになったというか考えさせられました。
質問3:権力者側である学校と生徒の対立やレイシズムについても描いている映画で、キャスティングにもこだわられていると思いました。監督自身がレイシズムの問題に関心を持ったきっかけとキャスティングの経緯について教えてください。
空:僕がそれに対して本当に意識的になったのは多分大学生の頃だったと思います。僕は日本人としてアメリカで生まれ育ったのですが、やっぱりそこでは僕はアジア人という括りになってくるので、幼少期はレイシストな冗談を言われたりすることもありました。その時はそれが普通なのかなと思って受け流したり、その場を紛らわすために一緒に笑ったりしていて。ただ、大学生の頃に社会の構造やレイシズムのことを勉強し始めると、「なんだ、幼少期に自分がいろいろと言われたのはレイシズムだったのか」と気づくわけです。僕は日本では日本人としての「特権」があるので、もちろん在日コリアンの方々の経験はありません。同時に、在日コリアンと一括りにしていますが、人によって経験は全然違うわけで。なのでやっぱりキャスティングにおいてはそれなりにその当事者性を持っている方にお願いしたいという気持ちが最初からすごくありました。今回、本当に奇跡的に役柄にピッタリの方々をキャスティングできてすごく嬉しかったです。
山上:改めて、映画の日本語字幕上映自体まだまだ少ない状況で、なんだか特別なものとして思われがちです。みなさんは普段洋画を観る際に吹き替え版と字幕版で自由に選んでご覧になっていると思いますが、そんなイメージで日本語字幕のありなしを自由に選んで鑑賞できる存在になっていければいいなという思いを持っています。ぜひ字幕ユーザーではない方も、2回目、3回目の鑑賞に別の鑑賞ツールとして活用していただければと思います。
空:もし映画を気に入っていただけたらぜひ友人などにもすすめてください。本当に皆さんの気持ちや想いが制作者側にとってはすごく嬉しいです。どこか感想を投稿していただいたり、僕に直接送っていただくのでも、ぜひお願いいたします。
Q&Aトーク中は、涙を流しながら監督に感想を伝える質問する方や、字幕付き上映ならではの鋭い質問も飛び出し、話し手も聞き手も真剣に互いの話に目や耳を傾けていました。イベント終了後もロビーで監督への感想や質問を述べる観客で溢れかえるなど、大盛況のイベントとなりました。
本作品は『UDCast』方式による視覚障害者用音声ガイド、聴覚障害者用日本語字幕に対応しています。また今後は10月20・21日の二日間にて、全国のいくつかの劇場にて日本語字幕付き上映が行われる
対象劇場など詳しくは公式サイトの劇場ページをチェックしてください!(https://theaters.jp/21051)